こんにちは、ねもと歯科クリニック院長の根本有紗です。
矯正歯科で診療を受けた際に「アンカースクリューを使用します」または「骨に小さいネジを入れます」と言われた事はないでしょうか?
別名ミニインプラント、マイクロインプラントとも呼びますので、えっ?矯正でインプラント?と思う方もいらっしゃるかと思います。
また、ネジを骨に入れると聞いただけで「いや、いいです。」とおっしゃる方もいます。
ではアンカースクリューは何のために入れるのでしょうか?
今回は矯正治療に用いられるアンカースクリューについて、その目的やメリット・デメリットなどについて解説していきます。
比較的新しい治療となるため、詳しい情報も少ないかと思いますので、内容をよく知った上で治療を受ける際の参考にしていただければ幸いです。
アンカースクリューは歯科用インプラントの小さいもので、私自身歯科用インプラントは1000本以上の埋入症例もあり、とても詳しい分野でもあります。
歯科用インプラントは永久的に入れておくものですが、アンカースクリューは治療後抜いてしまう一時的なものですので、違いもあります。
アンカースクリューが怖い!
という方に痛みやその後の違和感についても解説していますので、よろしければ最後まで読んで下さい。
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目次
アンカースクリューとは?
別名「ミニインプラント」「マイクロインプラント」「マイクロスクリュー」と言われるもので、矯正治療で歯並びを改善する過程で、歯を引っ張るために顎の骨に直接小さなネジを入れるものです。
顎の骨に直接入れるのでアンカースクリュー自体が動いたりする事はありません。
また、治療が終わればそのネジは除去します。
使われている素材
生体親和性と言って、通常アレルギー反応や拒絶反応の起きる事がほぼない「純チタン」または「チタン合金」を使用します。
純チタンは比較的金属の中では柔らかいため、強度を出すためにチタン合金にしているメーカーもあります。
安全性
チタンはアレルギーがほぼなく、生体内に入った時に生体が排泄しようとせず反応が起きない事から、骨の中に入れるインプラントの材料として開発されました。
アンカースクリューもそれに準じてチタンという素材が使われています。
歯科用インプラントは、現在の歯根型になってから60年近い歴史があり大きな問題もありません。
その他、骨折時のプレートの材料としても使用されており、安全性としては問題のないように思います。
大きさ
アンカースクリューは入れる位置によって長さや太さに違いがあります。
長さは6ミリ~12ミリ、太さは1.4ミリ~2.0ミリです。
粘膜には厚い所もあれば薄い所もあります。
そのため厚い粘膜の部分に短い6ミリのアンカースクリューを入れても骨に届かないという場合もありますし、逆に粘膜が薄い部分に長すぎるアンカースクリューを入れてもあまり意味がありません。
人工歯根用の歯科用インプラントは内側の海綿骨という柔らかい骨の部分も支えとなるのですが、アンカースクリューは表面の皮質骨と言われる硬い表面の骨の部分に固定を求めますので、アンカースクリューの長さと脱落してしまうリスクは関係ありません。
そのため、骨の奥深くまで入れるものではないので、侵襲は比較的小さな治療と言えます。
アンカースクリューの痛みや腫れ
学生時代にアンカースクリューを入れる実習をお互いにしてみるという事をやったりするくらい侵襲は比較的小さいものです。
しかし、抜歯等と違い、異物を入れる治療は比較的違和感が長く続きます。
手術による腫れは48時間後がピークとなり、その後腫れは収まってきます。
違和感も3日~1週間くらいでなくなってきます。
術者、特にインプラント経験者からすると、アンカースクリューの埋入は難しい治療という認識はありません。
また、治療の侵襲としては横に生えている親知らずの抜歯等に比べるとかなり小さいものです。
矯正のために健康な歯を抜く程度の侵襲と考えてよいでしょう。
アンカースクリューはなぜ入れるのか?
1.全ての歯を1方向に動かす
矯正歯科は歯どうしでの引っ張り合いによって治療を行っていくものです。
隙間がなければ歯を抜いてその前にある歯と後ろの歯で引っ張り合いを行い、隙間をなくしていきます。
ですので、奥歯はそのままにして前歯だけを後ろに下げたり、親知らずだけ抜いてそれ以外の全部の歯を親知らずの位置にずらすという事は原則できません。
(現在インビザラインでは順次的遠心移動という方法で下げる量には限界がありますが、治療が可能です。)
アンカースクリューは骨の中に入れてしまえば、抜けるまでその場所から動いてしまう事はありません。
そのため、その固定されたアンカースクリューから前歯を引っ張れば奥歯は動かさずに前歯のみを後ろに下げる事もできますし、全ての歯を親知らずの位置に下げて行くことも可能です。
2.よくない動きを予防する
現在は表側矯正、裏側矯正、インビザライン等様々な矯正治療の方法がありますが、それぞれ得意な動き、苦手な動きがあります。
それと同時に起こってほしくない動きも起きてしまう事がよくあります。
アンカースクリューはその起こってほしくない動きを予防するためにあらかじめ入れておく場合があります。
例1)
虫歯が大きい歯を抜きたいので左右別々の位置にある歯を抜歯して矯正治療を行う場合、真ん中の位置がずれてしまう可能性があるため、片側にアンカースクリューを入れて左右対称に仕上げる。
例2)
裏側矯正では前歯を後ろに下げるリトラクションというステージの際、エンマスリトラクションと言って6本の前歯を一度に下げる事が多いが、特に上の歯の奥歯は顎のが骨が柔らかいため、奥歯が前にずれてしまい、前歯が十分下げられずに終わってしまう事が多い。
その予防のため前もってアンカースクリューを入れて前歯を下げる。
また、その際、裏側矯正特有の歯の回転(ローテーション)が起こってしまう事も多いため、その歯の回転も同時に予防できる。
その結果、裏側矯正をメインに行うクリニックではアンカースクリューを多用する事が多い。
『ねもと歯科クリニックの裏側矯正』についてはこちら
アンカースクリューのメリット
顎外固定装置を使用しなくてよくなる
ヘッドギアや上顎前方牽引装置などは聞いたことがある方は少ないと思います。
理由はと言うと、このアンカースクリューの登場であまり使用する事がなくなってしまったためです。
顎外固定装置とは、チャーリーとチョコレート工場のウィリーウォンカーが子どもの頃につけていた装置です。
ヘルメットのような器具で歯を引っ張るのですが、非常に目立つものでメタルブラケット以上に審美性に問題があります。
そんなヘルメットのような装置を数年間つけるくらいなら、骨に小さなネジを入れます、という方が多いので、アンカースクリューがよく使用されるようになりました。
抜歯をしないで治療できる確率が高まる
歯を後ろに下げたり、奥歯を骨の中に押し込んだりというのはワイヤー矯正ではなかなか難しかった動きです。
そのため、抜歯を行ってできた隙間を使って前歯を下げる。
または、前歯のかみ合わせがないオープンバイトという歯並びの場合には、抜歯をして前歯を後ろに下げる時にかみ合わせが深くなってしまうのを利用して前歯のかみ合わせを深くして治療をしてきました。
アンカースクリューを使用すれば、今までこれらの抜歯が必要だった治療も抜歯をしないで治療を行う事ができる場合が増えてきました。
アンカースクリューのデメリット
違和感や痛み
アンカースクリューを入れた後は、3日~1週間くらい多少の違和感や痛みがでてしまう場合があります。
アンカースクリューは小さいとはいえ、異物を骨の中に入れる手術です。
そのため横に生えている親知らずの抜歯や歯科用インプラントと比べるとかなり侵襲は小さいものの、腫れや痛みが出てくる場合も多いです。
前述しましたように、手術の腫れは48時間後をピークに引いてきますし、痛みもアンカースクリューを埋入して2~3時間後、麻酔が切れてから1~2日程度と長引く事は少ないですが、怖がりな方には向いていません。
費用
アンカースクリューはほとんどの歯科医院でオプションの治療となるため費用は追加になってしまう事が多いです。
費用はクリニックによって違いますが、数万円~10万円程度となる事が多く、費用負担がものすごくある治療ではありません。
脱落してしまう可能性がある
アンカースクリューは骨にしっかり固定される場合とすぐに抜けてしまう場合があります。
どのような場合に抜けるかというと、骨が柔らかい場合です。
アンカースクリューは表面の硬い皮質骨という骨の部分に固定されるのですが、場所によっては外側の骨が薄く、また内側の海綿骨もスカスカという場合があります。
人によっても個人差がありますが、場所によっても大きく差があります。
イメージとしては下顎の皮質骨は全体的に硬く、特に奥歯でさらに硬い皮質骨がある場合が多いです。
上あごは奥歯の頬側は皮質骨がとても薄く、全体的に骨が柔らかいです。
前歯の辺りは中間の柔らかさで、上あごの舌側はとても骨が硬いです。
後戻りしやすい
アンカースクリューは全ての歯を1方向に動かすことができるとても画期的な側面がある半面、歯を全て1つの方向に動かした場合には、後戻りを防止するのが難しいという問題点があります。
途中の歯を抜いて矯正治療を行った場合、抜いた前後の歯は反対方向に戻ろうとしますので、マウスピースや固定式のリテーナーで歯を固定しておけば後戻りはありませんが、全ての歯を同じ方向に動かした場合、歯列全体を固定しても全て後戻りの方向が同じであるため後戻りしてしまう可能性があります。
インビザラインにおけるアンカースクリューの使い方
ガミースマイルの治療など前歯の圧下に使う
インビザライン単体やワイヤー矯正でも2~3ミリ程度であれば前歯を上に持ち上げる事ができます。
5ミリ程度であれば人によっては持ち上がる場合もありますが、10ミリ以上となると矯正治療のみでは難しいです。
しかし、マイクロインプラントで引っ張っていけば治療は可能です。
抜歯した部位の空隙閉鎖で奥歯が前に行かないようにする
抜歯を伴う治療においてもアンカースクリューを使用する事があります。
ゴボ口を治したり、隙間がかなりの量必要な場合です。
抜歯をすれば1本の歯が8~10ミリ程度ありますので、左右2本抜歯すれば20ミリの隙間ができます。
その隙間もそのままアンカースクリューを使用せずに閉じていくと半分から3分の1程度は奥歯が前に出てきて隙間が埋まってしまいます。
全ての隙間を前歯を下げたりガタツキを取るために使うには、アンカースクリューで前歯を引っ張り、奥歯は動かさないようにする必要があります。
順次的遠心移動の補助
インビザラインには順次的遠心移動というワイヤー矯正にない治療があります。
ワイヤー矯正では装置をつけた全ての歯が移動していまい、どこかを固定すると言うことはできませんが、マウスピース矯正の治療では動かす歯と動かさない歯を設定することで、時間はかかりますが、歯を抜かずに全ての歯を後ろに下げることができます。
この治療にも下げられる限界があり、マウスピース単体ですと3〜4ミリ程度しか下がりません。
しかし、アンカースクリューを併用しアンカースクリューにゴムをかける事で、それ以上の量下げる事ができる可能性があります。
『ねもと歯科クリニックのインビザライン』についてはこちらから
失敗と注意点
アンカースクリューの脱落
前述しました通り、骨の硬い、柔らかいでアンカースクリューの成功率が変わってきます。
手術をしたからといって必ず生着してくれるわけではなく、特に上の歯の奥歯のあたりに入れる場合には外側の硬い皮質骨が薄く成功率はさらに低くなります。
歯との接触、貫通
アンカースクリューが歯を貫通したというケースレポートがあります。
歯と歯の根の近さ等により、アンカースクリューを入れるのは難しいというケースもあります。
まずはアンカースクリューはどこにでも入れられるわけではありませんので、歯に接触してしまうリスクが高い場合には口元の突出感等とリスクを天秤にかけ、それでもやりたいと思った場合に入れてもらうのがよいでしょう。
歯に接触したりすると最初の数日は炎症があるので痛みが出ますが、そのまま無症状で大きな問題もない場合もあります。
歯の神経まで貫通してしまっている場合、痛みがひどくなれば神経の治療が必要になる場合もありますが、接触している程度であれば大きい問題にならない事も多いので様子をみてみるとよいでしょう。
まとめ
矯正治療におけるアンカースクリューの使用方法、またアンカースクリューについてご理解は深まりましたでしょうか?
歯茎にネジを打ち込むと聞くとびっくりしてしまうかもしれませんが、安全性や侵襲の大きさを考えると、過度に心配する必要はない治療法かと思います。
比較的新しい治療方法になりますので、導入していないクリニックもある事かと思います。
また、インビザライン等のマウスピース矯正自体も新しい方法ではあるのですが、現在はそのインビザラインにアンカースクリューを併用するというのも珍しい方法ではなくなってきています。
アンカースクリューを使う事によって可能となる歯の動かし方や、歯のよくない動きを防ぐために使用する事があり、矯正治療の相談をした時に提案を受ける場合もありますので、今回説明したデメリットや注意点も参考にしていただき、治療を検討する際の役に立てていただければ幸いです。
札幌またはその近郊の方は、ねもと歯科クリニックでもアンカースクリューを使用した矯正治療を導入しております。またインビザラインとの併用ももちろん可能です。
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